【島田洋一】ドイツの「勝訴」と慰安婦問題

【島田洋一】ドイツの「勝訴」と慰安婦問題

 1月8日、ソウル地方裁判所が、韓国人の元慰安婦らに賠償金を支払うよう日本に命じる判決を下した。

 「反人道的犯罪行為であり、強行規範(jus cogens)に違反」しているため、日本に主権免除(主権国家は他国の裁判権に服さないとする国際法上の原則)は適用されないという理屈である。

 「強行規範」とは、明文の有無にかかわらず、あらゆる国際合意や条約より上位にあるとされる、人が人であるための基本原則を指す。要するに、「人でなし」の所業を犯した日本を国際法の保護対象にすることは許されないというわけである。

 この判決における事実認識の誤りについては、別に専門家が論じるだろう。以下で取り上げたいのは、日本側の対応である。

 加藤勝信官房長官は、主権免除原則に反した判決であり、韓国側の責任で取り消すべきだと強調している。 

また自民党の佐藤正久外交部会長は、「日韓請求権協定、2015年の日韓慰安婦合意、主権免除を認めた国際法を無視した三階建ての違反。日本政府の資産は国民の資産だ。仮に韓国側が差し押さえるなら、制裁を含めた強力な対抗措置を取る必要がある」と語気を強めた。その通りであり、ぜひ措置の具体化を急いでもらいたい。

 さらに佐藤氏は「日本だけの問題ではない」として、国際司法裁判所(ICJ)への提訴も主張している。同調する自民党議員も多いと聞く。問題はここである。
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ICJへの提訴を主張する佐藤正久・自民党外交部会長
 提訴積極論者は、過去にドイツがイタリアに勝訴した「フェリーニ訴訟」を論の補強材料に挙げる。しかしこの裁判は警戒すべき内容に満ちている。

 簡単に経緯を記すと、第2次世界大戦中に捕虜としてドイツに連行され軍需工場で働かされたルイジ・フェリーニが、1998年、損害賠償を求めて、自国イタリアの裁判所にドイツ国を提訴した。

 地裁、高裁ともに「主権免除」を理由に訴えを退けたが、2004年、最高裁が「当該行為が国際犯罪である場合には主権免除は適用されない」と判示し、原告の逆転勝訴となった。その後、ドイツが賠償金支払いを拒否したため、イタリア政府は、在伊ドイツ国有資料センターを差し押さえる。

 これを不当としてドイツがICJに訴え、イタリアも応じたため、裁判開始に至った。結果はドイツの勝訴となったわけだが(2012年2月3日)、精査すべきは判決文の中身である。

 判決はまず、次のような事実認識を示す。

 「ドイツは『特に虐殺において、またイタリア軍捕虜に関して、イタリアの男女に筆舌に尽くしがたい被害をもたらしたこと』を充分認識し、これらの行為が違法であったと受け入れ、本法廷において、『責任を充分に認める』と述べた。本法廷は、問題の行為は『人間性に関する基礎的な配慮』を完全にないがしろにしたとしか表現しようのないものと考える」

 つまり法廷は、ドイツが非人道的な違法行為を犯したと再認定した上で、強く非難しているのである。

 さらに判決は、「戦争犯罪のイタリア人被害者と人道に対する罪への補償として、ドイツが相当な措置を取ってきたことに留意する」としつつも、補償対象から捕虜を外したことは「驚きであり遺憾」とドイツ批判を続けている。

 にもかかわらず、結論としては主権免除原則に外れた行動をイタリア側が採ったことは認められないとした。確かにドイツの勝訴ではあろう。

 しかしICJは、判決はあくまで手続きに関する判断で、「当該国に補償の義務があるか否かとはまったく別問題」と念を押している。さらに独伊両国が交渉による解決を図るよう促してもいる。

 ICJは「紛争当事国間の合意」を審理開始の条件とするので、日本が提訴しても韓国が応じなければ訴訟は成立しないが、仮に応じた場合、右記同様の展開となりかねない。

 ICJには中国人、ロシア人の判事がおり、欧州リベラル派やアメリカ人の判事も基本的に東京裁判史観の持ち主と見ておかねばならない。韓国は元慰安婦を現地に送り込み、泣き落とし作戦に出よう。日本の左翼も彼女らと「連帯」行動を取るはずだ。ドイツと違って日本は「人道に対する罪」を認めない以上、その分「裁判官の心証」は悪くなる。

 たとえ勝訴しても、判決文に日本批判の文字が並び、再交渉を促す一節が入る結果となりかねない。そうなれば韓国の実質勝訴である。

 なすべきはICJへの提訴ではなく、ファクトのしっかりした発信と日本独自の対韓制裁だろう。
島田 洋一「(しまだ よういち)
1957年、大阪府生まれ。福井県立大学教授(国際政治学)。国家基本問題研究所企画委員、拉致被害者を「救う会」全国協議会副会長。

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2021/2/11 15:02

絶対悪として悪名高いナチスドイツですが、実情はそれとは違う姿が見えてきます。たとえば連合国の捕虜収容所を調査したへンリー・アラード中佐の報告によれば、 ヨーロッパの捕虜収容所の状況は日本軍の捕虜収容所の状況よりもほんの少し良いか、せいぜい同等であり、 ドイツ軍の捕虜収容所の状況よりも悪かったといいます。つまりドイツ軍の捕虜収容所の実際の状況は、他国と比較して良かったのです。
ナチスドイツを悪の代名詞たらしめている強制収容所についてですが、アウシュヴィッツでガス室として公開されている設計図には「死体安置室」という書き込みがあるだけです。それらの地下室が処刑用ガス室として設計されたことを示す文書はありません。国際的な調査団による実地検証もされていないためにガス室での虐殺があったという科学的根拠もありません。

強制収容所における食事なども当時の資料等により、かなり良かったことが分かります。収容所を監督していた赤十字の報告書には1943年から44年の間ですら重労働者は最低でも一日に2750kcalを摂取していたと記されています。

ドイツは絶対悪などではないのです。

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