【石角完爾】ワクチンを「打たねえよ」?~政治家は"言葉...

【石角完爾】ワクチンを「打たねえよ」?~政治家は"言葉"に責任を持て~

 政治は言葉だ。民衆に負の結果を与える言葉を吐く政治家のいる国は「普通の国」ではない。立証責任を国民に押し付ける発言をする政治家のいる国は「普通の国」と言えるのか。

 特に推し進めようとしている行政政策、政治政策とその負の側面について「政策の実行と負の結果には因果関係の証拠(エビデンス)がない。政策の実行をすれば負の側面が生じるという証拠はない」という発言をする政治家のいる国は「普通の国」ではない。

 なぜなら、政治家というのは証拠の提出を国民に押し付けてはいけないからである。証拠 の立証責任は国民にはない。反証の義務も国民にはない。政治の側に反対の証拠がないことの立証責任、負の側面が生じないことの証拠提出義務がある。

公害問題と立証責任

 四日市喘息という公害問題が昭和40年代にあったが、四日市の工場排煙と喘息の間には因果関係の証拠がない、と時の政府は言っていた。熊本の水俣病もそうだ。チッソの排水と水俣病と言われる病気についての因果関係の証拠はない、と当時の政府は言っていた。立証の責任、反証の義務を全て被害者に押し付けたのである。

 例えば仮定の話だが、政府の予算を使ってGo To タバコキャンペーンをやろう、タバコ農家を助けるためにと仮定しよう。これに対して医学会や医師会、学会からGo To タバコキャンペーンをやれば肺疾患がや肺癌が増える、だから好ましくない、という指摘が出た場合に、「タバコの販売が増えれば肺癌が増えるという証拠はない」と言ってしまえば、それは政治家としての発言ではない。政府にこそ、その予算を使って、タバコの販売が増えても肺癌は増えないとの証拠の提示義務がある。

 酒類の販売についても同じだ。政府の予算を使って酒造業者を助ける為にGo Toドリンク キャンペーンをやろうとした時に、警察関係者から飲酒運転の交通事故が増えるという反対が出た時に「酒類販売の促進と交通事故の増加の証拠はない」と政治家が言ってはいけない。政治家にこそ酒類販売が増加しても交通事故の増加はないとの証拠の提出義務があるからだ。そのために、国民の払った予算があるのだから。

政治家が「(ワクチンを)打たねえよ」は言うべきではない

 したがって、COVID-19 のワクチンができても「俺は打たねえよ。」ということを言う政治家のいる国は「普通の国」ではない。

 ジェンナーの種痘を米国で最初に受けたのは当時の第3代大統領のトーマス・ジェファーソンである。天然痘の種痘は全く未知の予防方法であり、当時の人は牛のばい菌を注射すると言って非常に恐れた代物であった。しかし、ジェファーソン大統領は「国の指導者が範を示さなければ誰も接種はしない。私が見本を示す」と言って自ら接種を申し出た。

 筆者の息子はオックスフォード大学を出て現在は米国のアトランタにあるCDC(アメリカ疾病予防管理センター)のコロナウイルスタクスフォースの一員で、「ワクチンの接種率と社会的文化的背景」という論文の著者の一人でもある。

 政治家、特にその国のトップのワクチンに対する態度表明が、その国の予防接種の普及率の差になって現われるという社会疫学的調査がある。臆病な政治家を抱くと予防接種が普及しない。勇気のあるリーダーを抱くと予防接種はその国に普及する。

「なりたい職業」にみる"国を守る"意識

 最近の読売新聞オンラインの調査によると、日本の男の子の将来なりたい職業はサッカー選手、女の子は食べ物屋さん、そして男の子の次になりたい職業は野球選手、女の子の2位は保育園、幼稚園の先生。日本の大学生の就職希望ナンバーワンは商社とか銀行とか証券会社で、その理由は勤務条件が良いということのようだ。

 ところで下の写真は私の息子が行った米国の軍事高校の成績優秀者の栄誉礼の写真(黒馬に乗りサーベルをかざしているのが息子)であるが、最近の米国の調査によると、男の子は将来国を守るために軍人になりたいというのが3位に入っており、1位はコンピュータ 技術者、2位は科学者、3位が軍人である。1~3位の職業とも、いずれも勤務条件はあまり良くない。
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米国・軍事高校/栄誉礼の模様
 日米の違いの興味深い比較ではある。
 この違いからか、例えば、新型コロナのワクチンの開発で世界の先頭を走っているのはModernaというマサチューセッツ州にあるベンチャー企業である。その社長Stéphane Bancel はミネソタ大出身の科学者であり、同社共同代表のStephen Hoge は、マサチューセッツ州にあるアマースト大学の出身の科学者である。またCTO のJuan Andres も同じく薬学専攻の科学者である。

日本は"普通の国"なのか

 新型コロナから日本人を守るワクチンの開発を自国でできない日本、軍人や科学者が憧れの職業でない日本は果たして国民を疫病から、はたまた敵国からの攻撃から守る軍人や科学者のいる「普通の国」と言えるのであろうか。

 しかも、自国で開発すらできなかったワクチンを “俺は打たねえよ”と発言、国民に範を示そうともしない政府高官のいる国は「普通の国」と言えるのか。
 
 醜い政争と平気で嘘をつく今の日本の大人たちの政治そして愚かな税金の使い方を見ていれば、日本の子供たちが軍人や科学者でないような職業を将来希望するのも無理なからぬところである。ちなみに、米国政府がワクチン開発にModerna社に補助金として投じる金額4億8千3百万ドル(約483億円)は、ほぼほぼ“アベノマスク”のコストと同じである。

 父親の私としては息子にはウエストポイントに行って軍人の道に進んでもらいたかったが、公衆衛生の学問に強い熱意を示し、その道を進んでいる。
「敵の攻撃から国を守るのは軍人、疫病の攻撃から国と国民を守るのは科学者、どちらも国に貢献する者である」という息子の考え方に、私は同意した。

 さて、憲法を改正すれば日本の高校生、中学生の将来なりたい職業の上位に科学者や自衛官というのが登場してくるだろうか?

 以下は、私が2020年5月18日に本サイト「Daily WiLL Online」に発表した “国を守る” ことに関する小論文である。是非参考にしていただきたい。
日本語版 
英文版
石角 完爾(いしずみ かんじ)
1947年、京都府出身。通商産業省(現・経済産業省)を経て、ハーバード・ロースクール、ペンシルベニア大学ロースクールを卒業。米国証券取引委員会 General Counsel's Office Trainee、ニューヨークの法律事務所シャーマン・アンド・スターリングを経て、1981年に千代田国際経営法律事務所を開設。現在はイギリスおよびアメリカを中心に教育コンサルタントとして、世界中のボーディングスクールの調査・研究を行っている。著書に『ファイナル・クラッシュ 世界経済は大破局に向かっている!』(朝日新聞出版)、『ファイナル・カウントダウン 円安で日本経済はクラッシュする』(角川書店)等著書多数。

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