独自核は「犯罪」という洗脳【島田洋一:WiLL HEA...

独自核は「犯罪」という洗脳【島田洋一:WiLL HEADLINE】

核については「検討」しません―
安倍晋三元首相の「核共有(シェアリング)」発言をきっかけに、核論議が活発になった。歓迎したい。

 まず、安倍発言を正確に引用しておこう。
「NATOでも、ドイツやベルギー、オランダ、イタリアが核シェアリングをしている。自国にアメリカの核を置いていて、落としに行くのはそれぞれの国が行うというデュアリティ(duality =二重)システム」(2022年2月27日・フジテレビ)

 安倍氏が正しく理解しているように、「核共有」で「ボタン(認証コード)」を握るのは、どこまでも米大統領である。

 同盟国は二重キー・システムの運搬手段(戦闘機など)を補完的に提供することで抑止力の一端を担うが、米大統領のOKなしに発射はできない。すなわち、自由に使える形で分け与えられるわけではない。

 決定権は米側が握ったままで、運搬手段に関して同盟国も責任分担するというのが、少なくとも欧州で実施されてきた核共有の形であり、それ以上でも以下でもない。

 もちろん、アメリカの「核の傘」に頼りながら、その核を「持ち込ませず」とする偽善を打破するうえで「共有」に踏み込むことは大いに意義がある。

 しかし、それはあくまで他力本願ならぬ「米力本願」の枠内での仕事にとどまる。露骨に言えば「下請け核」である。

 安倍発言の効果で、「タブーなき核議論が必要」と語るところまでは政界でもタブーではなくなった。
 だが、日本独自の核武装を主張することは、いまだ絶対的なタブーであり続けている。

 たとえば、理念的に明確な保守派で、自民党の「日本の尊厳と国益を護る会」の幹事長を務める山田宏参院議員は、「国連安保理常任理事国であるロシアがウクライナに侵攻し、プーチン氏が核恫喝を行ったことで、世界は劇的に変わった。各国が『自国の防衛力』『核抑止力』を見直している。日本もタブーなく、幅広く議論すべきだ」との認識を示し、「わが国に核兵器を撃ち込ませないための議論」を進めて提言を行うと言う(夕刊フジ・4月4日)。

 しかし、その山田氏ですら、「わが国は核拡散防止条約(NPT)体制下にある。核兵器をつくり、保有する選択肢はあり得ない。この前提で『万全な核抑止力』をどう確保して機能させるかをチェックする」と入口のところで断言してしまっている。これではタブーなき議論にならず、「万全な核抑止力」の確保もあり得ないだろう。

 山田氏を批判しているのではない。まずは、政治家が思い切った発言ができる土壌づくりを広く行う必要がある。

 選挙の洗礼に晒される安倍元首相が「核共有」に言及したということは、言論界ではさらに踏み込んだ議論をしてほしいということだ。安倍氏の後追いにとどまらず、独自核保有の具体像まで踏み込まねばならない。
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独自核は「犯罪」という洗脳【島田洋一:WiLL HEADLINE】

せっかく意義のある問題提起を行ったが―
 ここ数十年来、「唯一の被爆国である日本が核抑止力を持つなど許されない」というテーゼが確立してきた。しかし、この「常識」は論理的におかしい。
 唯一の被爆国であればこそ、再度の大虐殺を防ぐため、独自核抑止力を保有する資格があるだろう。今や自縄自縛を招いた洗脳を解くべき時である。

 共産党の穀田恵二国対委員長は、安倍氏の問題提起を「核兵器を使うのは断じて許されないという世界の流れに逆行する犯罪的な発言だ」と非難する(3月2日)。
 核共有で犯罪なら、独自核保有など、さしずめ〝猟奇的凶悪犯罪〟ということになろう。

「世界の流れ」に目をふさぎ、抑止と使用の区別すら付かない、というより、付けようとしないこうした勢力との厳しい戦いが今後待っている。
 
 山田氏が言う通り、日本核武装においてはNPT体制との関係も問題となる。
 脱退自体は、周りを危険な核保有国に囲まれるに至った日本のような国の場合条約上の権利とはいえ、日本が脱退すると、世界を歯止めなき核競争に追いやると言う人々がいる。

 しかし、幸か不幸か、日本にそんな影響力はない。核武装する国は、日本の動向などに関係なくするし、しない国はしない。
「唯一の被爆国として核廃絶を主導する」と言いつつ、アメリカの核抑止力に頼り続ける日本が世界を動かせるというのは幻想である。

 現実を見据え、独自核抑止力の整備に踏み込むべき時だ。
島田洋一 しまだ よういち
1957年、大阪府生まれ。福井県立大学教授(国際政治学)。国家基本問題研究所企画委員、拉致被害者を「救う会」全国協議会副会長。著書に『アメリカ解体』(ビジネス社)など。

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