オミクロン対策は新型コロナとの最終戦争

 ついに新型コロナとの最終戦争が始まりました。オミクロン株の対策こそ、人類が新型コロナを克服できるか否かの瀬戸際です。

 私は公衆衛生の担当理事を務め、2020年2月には日本医師会の災害医療チーム(JMAT)の一員として大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に乗船し、医療支援を行いました。今は神奈川県厚木市にある南毛利内科抗加齢・人間ドックセンター院長として新型コロナの感染者の治療・研究にあたっています。

 オミクロン株が急速に蔓延している状況下にあります。ワクチンを2回接種したから大丈夫ではないかという意見もありますが、そう簡単にはいきません。オミクロン株を解析した結果、基準株と比較すると、スパイクタンパク質に30カ所程度のアミノ酸置換(以下、便宜的に「変異」と呼ぶ)を有し、3カ所の小欠損と1カ所の挿入部位を持つ特徴があることが認められました。その変異の特殊性により、ワクチンの抗体が有効性が低いと見られています。

 実際に英国では国民の7割がワクチン接種をしているにもかかわらず、感染者数が日増しに増大し、1日20万人に達する勢いです。重症化予防は効果があるようですが、感染予防には働いていません。

 若年層が感染しても重症化することはほとんどありません。オミクロン株の発祥元、南アフリカのデータを見ても、30代~40代ばかりなので、重症患者はほとんど存在していません。一方で、日本ではワクチン効果がすでに減弱した高齢者に感染した際の心配は残ります。
オミクロン株を人類は克服できるか

オミクロン株を人類は克服できるか

廊下越しの会話で感染

 ウイルスは感染力を上げると弱毒化する傾向にあります。というのも、重症化すると感染者は身動きできませんから、感染を拡散することはできなくなるからです。ウイルスとしては気付かれないまま拡散してくれるほうがありがたい。
 ところが、新型コロナの場合、その傾向と異なります。デルタ株に変異した際には感染力が5倍上がりましたが、病原性に変化は見られなかった。

 その理由は何か。もともと新型コロナは感染を広げる若年者では弱毒化しています。感染を広げるときは発症する2日前から感染性が生まれ、それから4日程度しか強い感染性はありませんので重症化する人でも感染性があるときは歩き回ることができます。
 要するに、新型コロナはベトコンのように無症状のまま、ゲリラ的に動き回り、末端のリスクがある人に感染すると重症化させます。感染を広げるときは軽症なので、活動性の低い高齢者で軽症化する圧力がかからないと考えられます。

 今回、変異を遂げたオミクロン株の場合は、感染力がさらに高まっています。アジアで最初のオミクロン株患者は香港で見つかりました。マスクなしでホテルの廊下越しに会話を交わしただけで感染したのです。

 まさに空気感染そのもので、麻疹と同じで、感染力という点では人類にとって最強の病原体です。弱毒化はしていますが、感染者数が爆発的に増えれば、重症患者が増える可能性は高まります。高齢者が実際にどこまで重症化するのか。現時点では確実なデータは出ていませんが、欧米では死者数も増加していますから、油断は禁物です。

検査側も感染するケースが

 11月26日、南アフリカでオミクロン株を発見、同月28日、WHOが声明を出して、それから1週間で、世界中に蔓延しました。2週間の間にデルタ株からオミクロン株に置き換わったのです。基本再生産数(その病気が感染性を持っている間に、1人の患者が何人に感染する数)は武漢での新型コロナは「2」、デルタ株は「5」、オミクロン株は「20」で、麻疹(はしか)と同等と見られています。

 2019年12月、新型コロナを発見してから3カ月間で2万人に感染者数が拡大しました。このことから、最初は抑えることができたのに、ある一点を超えると爆発的に数が増える傾向にあることが分かります。
 欧州の感染傾向を見ると、オミクロン株の場合、感染してから18日目から24日目のところで、一気に爆発的に感染者数が増加する傾向にあります。我々が努力をすればある程度は抑えることはできますが、もともと爆発力が凄まじいので、最善を尽くすほかありません。

 具体的にどうすればいいのか。PCR検査を増やし、陽性者であれば即刻隔離する。そうやって感染拡大の芽を潰していくしかありません。そのようにして冬の季節を乗り切れば、爆発せず、日本はオミクロン株を克服することができるでしょう。

 しかし、無症状の場合、唾液によるPCR検査の信憑性(しんぴょうせい)は確実ではありません。無症状の2日前から感染性があると言われていますが、このときは感染していても、唾液にウイルスが出ない確率が3割もあるとのこと。発熱し、コロナかもしれないと調べる際には唾液で構いませんが、症状はないけれども濃厚接触してから3日以上経っている人に対しては、鼻の中に綿棒を入れ、咽頭(いんとう)でチェックするほうがPCR検査としても正確です。

 一方で、感染力が高いため、検査側も感染するケースが増えています。大阪の検疫官や東京の医師がマスクとフェイスガードをした上で感染しています。検査のやり方を考えなければ、医療従事者のほうが感染し、クラスター(集団感染)が病院内で発生してしまう。

 医療従事者が隔離されることになり、現場の戦力ダウンが沖縄では現実のものとなっています。そうなると、医者側もオミクロン株の検査に及び腰になってしまいます。どんどん検査する場所がなくなり、結果的にオミクロン株の早期発見が遅れてしまいます。またデルタ株かオミクロン株かを解析するにも時間がかかる。ただし、日本ではデルタ株が沈静化傾向にありますから、陽性反応が出れば、基本的にオミクロン株と認定できます。

 ともかく迅速な対応が急務です。
唾液を用いたPCR検査用ボトル

唾液を用いたPCR検査用ボトル

日本ならできる~空気感染の克服

 パンデミックを乗り越えるたびに、人類は病原体に対して進化を遂げてきました。

 14世紀の黒死病(ペスト)。ペストが発生しないのは、先進国の都市が感染源であるノミとネズミを追い払ったため。実は自然界の齧歯類にはペストは存在しています。都市に入ってこない理由は、そこを徹底的に防疫しているからです。

 19世紀半ば、コレラが流行した。ロンドン、ニューヨーク、江戸が一番ひどかった。当時、この3つの都市は世界的な大都市であり、人々がたくさん集住し、人口密度が高かったのです。屎尿(しにょう)はそのまま川に流れ、川の水は飲み水として利用していた。この循環がコレラ蔓延の最大要因でした。

 この教訓から人類は飲み水と下水道を完全に分離しました。大都市では、どこでも蛇口をひねれば水が出る現象は、考えてみればすごいことです。そこまでしなければ、コレラの脅威から身を守ることができない。上下水道を分離したことによって、人類は高密度に生活することを可能にしたのです。

 20世紀、スペイン風邪が流行りましたが、これは飛沫感染によって拡大。当時はマスクのみの防疫でした。では、スペイン風邪以降、水をコントロールしたように、空気をコントロールできるようになったのか――できていません。

 つまり、人類はスペイン風邪から進化していないのです。鳥インフルエンザや麻疹、SARS、MARS……と、いまだに空気感染の病気に関しては克服できていません。空気をどのようにコントロールするか。その技術を人類は身につけ、次の進化を遂げるべきです。

 無煙焼肉屋のように呼気を瞬時に拡散させずに排気、ウイルスフリー化して循環させる装置を、人が集まる場所では必ず設置するようにする。航空機・空港は特に設置する必要があります。

 空気をコントロールできるようになれば、今後は新型コロナだけではなく、海外から入ってくる空気感染の病気をすべて止めることができます。

 日本ではデルタ株が急激な減少傾向を示していることに対して、国際社会は驚愕しています。一体、その要因とは何だったのか。新型コロナの専門家は世界中では存在しておらず、予測ができたウイルス学者もいない。すべては後付けに過ぎず、明確に説明することができていません。

 今回のオミクロン株を克服できれば、世界は日本の感染症対策を見直すことになるでしょう。

ダイヤモンド・プリンセス号で得た教訓

 最後に、医療従事者として検査方法について、一つ提言があります。

 先述したように私はダイヤモンド・プリンセス号で検査を手伝ったのですが、現場の感染対策が混乱の中で清潔エリアと不潔エリアが不明瞭なところもあり、その後の勉強になりました。日々感染者が報告されるので感染症を培養していると国際的な非難も浴びましたが、実際に横浜着岸後の感染は極めて少なく、自由に船内を動き回っていた時のクラスターの恐ろしさを知りました。

 ダイヤモンド・プリンセス号で得た教訓は、次のようなことです。

「清潔エリア」と「不潔エリア」を明確に分ける必要がある。そして、1回使用した防護服、フェイスシールドをそのまま使い続けるのではなく、検査のたびに着替える必要性があること。というのも、1回検査で使用した防護服などには、感染者のウイルスが付着しています。そうなると、次の患者を診察するときに感染させる恐れが高まります。

 2020年5月、各医師会は発熱者を集め、PCR検査を進めました。それまでは保健所で対応していましたが、人数が多すぎるため、対応できなくなったからです。

 検査する人間が感染してしまうと、検査自体が停滞してしまう。エボラ出血熱のときも医療従事者が感染するケースが相次ぎました。それはどうしてか。防護服に付着したエボラ出血熱のウイルスを、防護服を脱ぐときに感染していたのです。その対策としてUV照射装置をつくり、防護服の上に当て、目はUV対策のためにシールドをつけ、5分間、照射するとエボラ出血熱ウイルスが消失することが医学論文になっています。さらに調べると、新型コロナも、UVに対しては圧倒的に弱いことがわかった。

 そういった経験・知見を踏まえ、感染症対策用のボックスを作成しましたが(写真参照)、神奈川県を中心に、多くの診療所に利用されることを願っています。
内山氏が設計した感染症対策用ボックス

内山氏が設計した感染症対策用ボックス

感染症対策用ボックスの仕組み

感染症対策用ボックスの仕組み

内山 順造(うちやま じゅんぞう)
神奈川県生まれ。1991年、香川医科大学(現香川大学医学部)を卒業。93年、東海大学医学部大学院に入学。98年、東海大学医学部大学院よりウイルス学の研究で医学博士号を取得。2001年、ハーバード大学医学部癌研究所(Dana-Farber Cancer Institute, Harvard Medical School)に博士研究員として留学、癌と老化について研究。13年4月より現職。17年、日本高齢消化器病学会優秀論文賞受賞、神奈川県内科医学会集談会優秀演題賞受賞。20年、日本医師会の災害医療チーム(JMAT)の一員として大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に乗船し、医療支援を行う。その経験を生かし、神奈川県医師会公衆衛生委員会副委員長、厚木医師会PCR検査センターの責任者として活動、ラジオ、雑誌・講演等で、COVID-19によるクラスター予防方法の普及に努める。

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