【朝香 豊】世界に蔓延る環境利権のワナ

【朝香 豊】世界に蔓延る環境利権のワナ

中国を利する「パリ協定」

 日本の菅総理は地球温暖化対策の国際的枠組みとされるパリ協定の趣旨を踏まえて、2050年に日本の二酸化炭素排出量を実質的にゼロにする方針を打ち出した。アメリカのバイデン大統領も大統領就任式があった1月20日にパリ協定に復帰する大統領令に署名し、2月19日をもって正式に復帰した。トランプ前大統領の決定を完全に覆した形だ。主流派メディアは、こうした日本やアメリカの動きを大いに歓迎したが、これが日本やアメリカ、世界にとって本当によいことなのかは大いに疑問である。

 現在のパリ協定の枠組みで最も利益を得るのは中国だということを、われわれは忘れるべきではない。現在、中国は世界のCO2のほぼ3割を排出しており、これは現在のアメリカの2倍、日本の9倍に相当する。だが中国はパリ協定のもとでは「発展途上国」として保護され、2030年まではCO2の排出量をどれほど増やしても一向に問題とはされないようになっている。たとえば、日本では石炭火力発電所の新増設など〝もってのほか〟という扱いであるのに対して、中国では石炭火力発電所をどれだけ増やしたところで何らの問題にはならない。実際に2020年に中国が新たに建設した石炭火力発電所の発電能力は、中国以外の国をすべて合計した数値の3倍以上に達しているのである。

 日本やアメリカは排出量の制約によって国内での製造業を盛んにすることに大きな制約が課されるのに対して、中国にはその制約はない。しかも中国は2030年を迎えた段階でパリ協定から離脱することも選択肢として保有していることになる。

 それなのに中国はパリ協定に参加することで、先進国からエネルギー構造の改善などを名目とした資金を受け取れることになる。中国はパリ協定参加を錦の御旗にして、実際には石炭火力発電所の新増設をどんどん推進していくとしても、環境問題に積極的に取り組んでいる国であるかのように振る舞うことさえできるのである。

 上記は笑い話ではない。国連環境計画のエリック・ソルハイム事務局長は「中国は環境保護において世界をリードしており、世界の国々の非常に良い模範となっている」と述べている。「不都合な真実」で一躍有名になったゴア元米副大統領も「中国はパリ協定の目標達成へ順調に進んでいる数少ない国の一つだ」と、中国を賞賛しているのである。
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環境保護活動の裏には何が?

再エネの利用は冷静に判断すべし

 さて衆議院の予算委員会で2月22日に質問に立った立憲民主党の菅直人氏は、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロとする菅総理の打ち上げた目標に関して「私も大賛成」だとした上で、「すべての電力を再エネで供給することが可能だと思っている」との論を展開した。

 だが、すべての電力を再エネで供給できるなどということは断じてありえない。そもそも 太陽光発電では夜間電力を賄うことはできないし、風力発電も風が吹かなければまったく利用ができない。こうした変動を調整するための火力発電は必須であることを忘れるべきではない。そしてこうした火力発電の利用効率は著しく落ちることになる。

 エネルギー密度の低い太陽光や風力に大きく依存すれば、エネルギーコストの上昇は避けられず、さらにこれらによって生まれる電力の質が大幅に低下することによって、製造業の競争力を著しく損なうことになる。こういう制約なしに2030年までやりたい放題になる中国と製造業の競争を行うとした場合に、とても日本やアメリカには勝ち目はないだろう。

 こうしたパリ協定のもたらす政治力学を考えた場合に、これを素直に支持することなど私には到底できない。

 さらに言えば、人間活動によって排出されるCO2が地球温暖化を引き起こしているということについては、さまざまな異論がある。2009年には地球温暖化を主張する研究者がさまざまなデータ改ざんを行っていたり、反対派の言論を強権的に封じ込めていたことが明らかになった「クライメート事件」も発生した。

 チェコ共和国の第2代大統領だったバーツラフ・クラウス氏は「ありもしない環境危機を演出し、政治家や官僚がそれを利用し、環境問題が人類にとって唯一の課題であるかの如く振る舞う。環境主義のドグマはかつて私たちが経験した共産主義の独裁的な論理と何ら変わらない」と述べている。この指摘は鋭いものであり、自由な経済活動に社会的統制を加えて自由な経済活動ができなくするための論理として使われていることに、私たちは警戒心を持つべきである。
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朝香 豊(あさか ゆたか)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。
日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。
現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。
日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」( https://nippon-saikou.com )の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。
近著に『左翼を心の底から懺悔させる本』(取り扱いはアマゾンのみ)。

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憂行生 2021/3/9 08:03

IPCCがどれだけ政治的な団体か認識していない人が多すぎると思う。特に日本人は国際機関を無邪気に信じすぎるきらいがある。「WHOの方から来ました」の産婦人科医が勝手放題に吹聴するコロナ脳への洗脳を恐れ入って拝聴したり。
IPCCおよび地球温暖化CO2主犯説肯定派は、CO2濃度が主犯であることをさも当然の真実のように語り、懐疑派に対して「もう終わった話」「懐疑派が未だにいるのは日本だけ」というが、「懐疑派バスターズ」なるものを結成して議論を圧殺しにかかっているところなどはむしろ自分たちに後ろ暗いところがあることを自白しているようなものだ。
「クライメートゲート」などもあまり一般には知られていないのではないか。
いや全く「これが完了すれば誰が(どこが)得をするのか」は冷静に考えるべきなのだが、コロナのようなそれこそもう明白に危険でないものも死病のように恐れる日本人には理解しろといっても無理があるような気がしてきた。

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