島田洋一:台湾有事と核恫喝【WiLL HEADLINE】

島田洋一:台湾有事と核恫喝【WiLL HEADLINE】

 アメリカのペロシ下院議長の台湾訪問に「反発」した中国共産党政権(以下中共)が8月4日から10日まで、台湾を取り囲むかたちで大規模軍事演習を行った。4日には沖縄県・波照間島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)に弾道ミサイル5発が着弾している。

 実際に台湾侵攻作戦を行うとなれば、中国軍は、琉球諸島の南部海域(台湾の北部海域)の封鎖を図るだろう。実戦性を重視し、習近平国家主席自身が、複数の演習案の中から日本のEEZと重なる案を選んだという。

 また同時期に、中国海軍の測量艦が北日本の周辺海域で情報収集に当たっていたらしい。まさに「台湾有事は日本有事」が眼前に展開されたわけである。

 なお中国外務省の華春瑩報道局長が5日の会見で、「EEZの件については、日本も分かっているように、両国は関連海域でまだ境界を画定していない。EEZに関する言い分は存在しない」と日本政府の抗議を撥ねつけている。
 華氏は、河野太郎外相(当時)が、鼻の下を伸ばしたツーショット自撮り写真を二度にわたってツイートし、国際的に顰蹙を買った当の相手である。アメリカの国務長官が同じことをすれば、即刻辞任に追い込まれただろう。その河野氏は、第二次岸田改造内閣で閣僚に復帰した。「駐日中国代理大使」の異名を取る超親中派の林芳正外相の留任と並んで、懸念される人事である。
島田洋一:台湾有事と核恫喝【WiLL HEADLINE】

島田洋一:台湾有事と核恫喝【WiLL HEADLINE】

台湾有事はもはや「起こるか否か」ではなく「いつ起こるか」の段階か―
 さて、台湾侵攻作戦の一部をなすか否かにかかわらず、中国軍が日本領土に攻撃を加えてきた場合、日本側は、南西諸島に配備された十二式地対艦誘導弾などで応戦することになる。十二式は、「対上陸戦闘に際して、洋上の艦船などを撃破する国産の対艦誘導弾」(防衛白書)である。GPS誘導で命中精度が高い。

 開発中の十二式「能力向上型」はステルス性を高め、射程を大幅に伸ばしており、中国本土のミサイル基地なども攻撃可能となる。配備が急がれる。

 問題は、洋上および周辺の陸地に留まらず、中共が、「核の恫喝」も含めて対日攻撃のレベルを上げてきた場合である。

 発射直前に敵の核ミサイル基地を叩くという発想は現実的でなく、大いに危険を伴う。まず、中国も北朝鮮も移動式発射台(輸送起立発射機)をすでに開発・運用しており、核ミサイルの正確な位置情報を得るのは困難である。しかも点検や修理などのメンテナンス活動を発射準備と誤認する可能性も付きまとう。結果的にかなりの死傷者を出す不意打ち攻撃となり、相手に核ミサイル使用の口実を与えかねない。

 実際、2022年4月1日、韓国の徐旭国防部長官が「(北朝鮮の)ミサイル発射の兆候が明確な場合には、発射地点や指揮・支援施設を精密攻撃できる能力を備えている」と発言したのに対し、北の独裁者金正恩の妹、金与正朝鮮労働党副部長が「南朝鮮が我々と軍事的対決を選択するなら、我々の核戦闘武力は任務を遂行せざるを得ない」と核による報復を示唆している(同4日)。
 発射前に基地を叩く戦術に頼ると、危険な相手との不安定な神経戦に陥りかねない。

 やはり、相手が大量破壊兵器を用いたり、非人道的な無差別攻撃を行ったりした時点で、報復として、その指令系統中枢に「耐えがたい被害」を与える反撃戦略を基本とすべきだろう。

 その場合、英国型の「連続航行抑止」が最も合理的である。発見されにくく残存性の高い潜水艦4隻にそれぞれ50発程度の核弾頭を積み、常時一隻は必ず外洋に出る抑止体制を指す。

 中共は、台湾を包囲する軍事演習を行いつつ、8月8日、ニューヨークで開催中の核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議の場で、「米国との核共有を繰り返し求めている。露骨な核の拡散だ」と日本を名指しで非難した。

 これに対し日本側は「日本政府は核共有を検討していないと明確に表明している」と「反論」したという。しかし力を入れるべきは、いかに日本が丸腰であるかという事実の強調ではないだろう。

 運搬手段に関して同盟国も責任を分担するが、核の発射ボタンはどこまでも米大統領が握る核共有は、核の傘の延長に過ぎず、日本独自の判断で使用できない。だから抑止力向上に大して資するところがないうえ、地上に配備すれば標的になるだけとの理由で「検討しない」なら分かる。しかしその場合、独自核抑止力の保有を真剣に追求せねばならないはずだ。
島田 洋一(しまだ よういち)
1957年、大阪府生まれ。福井県立大学教授(国際政治学)。国家基本問題研究所企画委員、拉致被害者を「救う会」全国協議会副会長。著書に『アメリカ解体』(ビジネス社)など。

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