朝香豊:あえてバブルを崩壊させる⁉習近平中国の危険な選択

朝香豊:あえてバブルを崩壊させる⁉習近平中国の危険な選択

中国「外資開放」に飛びつくウォール街

 世界経済が大撹乱する流れがどんどんと作られつつあることに、私は危機感を抱いている。なんと中国に対してウォール街が大接近を見せているのである。50兆ドルとも言われる中国の金融市場を中国政府が外資に開放するとの政策に、ウォール街は目の色を変えて飛びついているのだ。

 5月にゴールドマンサックスは中国工商銀行とウェルスマネージメントの合弁事業の設立計画について中国当局から承認が降り、JPモルガン・チェースの幹部のニコラス・アグジン氏が香港取引所のCEOに就任した。自由を失ったはずの香港の金融のトップに本来自由を何より大切にするはずのウォール街の大物が就任するというのは、何という皮肉だろうか。

 6月になると、アメリカの投資ファンドのブラックストーンが中堅の商業不動産開発のSOHO中国を買収した。ゴールドマンサックス、シティ、UBS、HSBCなどの大手金融機関は、自由を失った香港から撤退するどころか、逆に採用を大幅に拡充している有様である。
朝香豊:あえてバブルを崩壊させる⁉習近平中国の危険な選択

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大手金融機関は実は香港での採用を拡大している(写真は香港中央地区)
 中国銀行保険監督管理委員会(銀保監会)と中国人民銀行は「株式転換型永久債」と呼ぶ新たな債券の発行を銀行に容認した。通常であれば高利回りの永久債として魅力的な金融商品だが、銀行経営がピンチになったら強制的に株式に転換されるという債券である。この金融商品の販売手数料はウォール街に新たな収益機会を提供することになるから、大いに歓迎されているわけである。

 ところがその一方で、中国のバブル崩壊がいよいよ始まろうとしているから、皮肉なものだ。

中国金融モデルの実情

 中国銀行保険監督管理委員会(銀保監会)主席で、中国人民銀行(中国の中央銀行)の党委員会書記(トップ)の郭樹清氏は、上海で開催された「陸家嘴金融フォーラム」にビデオメッセージを寄せ、「外国為替、金、他の商品先物に投機している人達には、ほとんど一攫千金のチャンスがないだろう。これは、住宅価格が絶対に下落しないという賭けをしている人達と同じで、いずれ大きな代償を払うことになる」と述べた。間接的な言い方ながら、不動産投機で金儲けをしようとしていると、これから巨大な損失に直面することになると警告したのである。

 郭樹清氏は3年前の同フォーラムにおいても「違法な資金調達と闘う過程で、高収益は高リスクを意味することを国民に認識させるよう努めなければならない。収益率が6%を超えると(返済に)疑問符を打つ必要がある。8%を超えると非常に危険であり、10%を超えるとすべての元本を失う準備をしなければならない」と発言し、高金利のP2P金融(※)に対する警告を行っていた。そしてその後、当時5000社とも言われたP2P金融業者はあっという間に淘汰され、現在では事実上消滅した。中国の金融界のドンである郭樹清氏の警告にはこのような前例がある。

※P2P金融=主に個人間の貸し借りを仲介していた金融業者のこと
 6月1日に銀保監会の統信部(情報通信部)副主任の劉中瑞氏は、事業用のローンの名を借りた不動産融資について、銀保監会が住宅都市農村建設部や中国人民銀行と緊密に協力して、故意に問題を隠蔽している金融機関への処罰を厳格に行うこと、また不正な借り手の借入限度枠を縮小して強制返済を行わせ、個人の信用システムの評価を引き下げる方針を打ち出した。つまり、貸している銀行および借りている個人の双方を厳しく取り締まる姿勢を見せているのだ。
朝香 豊:あえてバブルを崩壊させる⁉習近平中国の危険な選択

朝香 豊:あえてバブルを崩壊させる⁉習近平中国の危険な選択

不動産バブル崩壊容認としか思えない制作が次々と―
 中国最大の不動産ディベロッパーでありながら経営危機が囁かれている中国恒大集団に対して、国内の大手銀行が貸出を制限し始めたことを、ブルームバーグは報じた。返済期限が来るたびに「借り換え」を行うことでデフォルトを免れてきた恒大集団だが、今後は借り換えに応じない姿勢を金融機関側が示してきているわけである。こうした変化を受けて、恒大集団のデフォルトが年内に発生するのではないかという憶測も、中国国内で飛び交うようになった。

 また各地の銀行で中古マンションに対する貸し出しが停止になる動きが広がっている。一部の都市では新築のマンションに対する貸し出しについても停止になる動きまで出ている。習近平が本気でバブル潰しに動き始めたことがわかるだろう。

中国が「バブル潰し」を選択するワケ

 習近平は力技で香港問題を「解決」することによって、7月1日に予定されている中国共産党創建100周年の記念行事を、自らの権力を誇示する場として確立した。これを「無事」迎えてからバブル潰しを始めるのではないかというのが、拙著『それでも習近平が中国経済を崩壊させる』で予測した流れであった。そしてどうやらその方向で中国共産党は本気で動こうとしているのである。
 バブル崩壊がもたらす経済への悪影響を考えて、中国政府はバブル潰しを絶対に行わないのだとの見方もあったが、その点については明らかに変化が生じた。

 現在中国では少子化が圧倒的な問題だと自覚されているが、その最大要因が不動産価格の高騰にあるとの認識を習近平体制は持っている。結婚段階で男は持ち家を持つのが当たり前とされている中国では、不動産の高騰によって結婚を諦める男性が増えている。無理をして持ち家を買っても、住宅ローンの支払いに収入の大半が消えるようであれば、子供を生んで育てることなど、とてもではないが考えられない。家を買って結婚して子供を育てるということは、普通に計算したら成り立たない話だ。バブル拡大を放置してきた大きな負の作用を、はっきりと問題として意識するようになった。
朝香 豊:あえてバブルを崩壊させる⁉習近平中国の危険な選択

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中国では「タンピン主義」(寝そべり族)と言われる無気力な若者が増大中—
 現在中国では「996」という言葉が流行っている。朝9時から夜9時まで週6日働くという意味で、中国の過酷な労働環境を表す言葉だ。「996」で一生懸命働いても得られる給料は微々たるもので、そんなものより不動産を転がして手に入れられるお金のほうが遥かに大きいという現実に、大半の若者たちは打ちのめされている。

 こうした中で「躺平(タンピン)主義」(寝そべり族)と呼ばれる、低意欲、低欲望のライフスタイルを選択しようという姿勢が広がってきた。恋愛も結婚もせず、したがって子どもも作らず、家も車も買わず、生きていく最低限しか働かず、派手な消費を避けてなるべく質素な生活を送るというものである。家でごろ寝していればそれでよく、必要がなければ働かないという姿勢だ。
 中国政府は躺平主義の若者を「精神病」だと非難し、躺平主義を謳ったTシャツなどのグッズの販売を禁止するような処置にも出たが、社会の上層部は共産党の既得権者が牛耳っていて、必死に真面目に働いても報われる見通しがない中国社会では、若者たちが躺平主義に共感を覚えるのは自然なことだろう。

 こうした社会の動きもあり、躺平主義を打破して若者が真面目に働いて子供を作るようになるには、バブルを崩壊させなければならないと、習近平は考えているようだ。習近平は社会主義者であり、個々人の自由な判断による経済などとても認められない。バブルを生み出しているのは金儲けを狙う資本主義的な汚らわしい考えなのだという思いもあり、バブル崩壊の副作用について、非常に軽く考えているように見える。
 ただ、その負担を中国国内だけで受け止めるつもりは習近平にはさらさらない。西側諸国にこの負担を負わせるために「金融自由化」という餌をばらまき、ウォール街にこの餌に食いつかせていたわけである。そしてこの罠に西側の金融機関は完全にはまってしまっている。

 これにより中国のバブル崩壊は全世界に波及する流れが強まっている。リーマンショックを超えるような激震が世界経済に走ることに、警戒感を持つべきである。
朝香 豊(あさか ゆたか)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。新著『それでも習近平が中国経済を崩壊させる』(ワック)が好評発売中。

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