中国企業の米国上場審査を厳格化

 アメリカ証券取引委員会(SEC)は、米国上場を目指す中国企業の審査を厳格化すると発表した。これにより中国企業は事実上米国市場で新規株式公開(IPO)をすることができなくなった。既上場であっても、新規の有価証券の売り出しも行えなくなった。

 これは中国の習近平政権が米上場の中国企業への締め付けを強化して、アメリカの投資家の利益を著しく損なわせるような動きに出たためである。配車システム大手のDiDi(滴滴出行)は6月末に米上場を果たした直後に中国政府から突如規制を加えられた。この結果6月30日に16.65ドルで初値をつけたDiDiの株価は、7月26日には7.16ドルまで落ちることになった。
朝香豊:中国企業の米上場厳格化は「中国経済崩壊」の引き...

朝香豊:中国企業の米上場厳格化は「中国経済崩壊」の引き金となるか

米国上場直後に中国政府から規制を加えられたDiDi
 DiDiはあくまでも一例にすぎない。中国当局はトラック配車アプリの満幇集団、求人サイトの看准にも審査開始を通告した。この両社も米上場企業である。

 習近平政権は小中学生向けの学習塾に対して週末や長期休暇期間中の営業を禁止するなど厳しい統制を加え、非営利団体への転換を求めた。新規開業許可を停止し、上場による資金調達を禁止し、外資企業の買収などによる経営参画も認めない方針まで打ち出した。

 これも米市場に上場している「TAL」「高途」「新東方教育科技」といった企業の株価を直撃した。TALの場合には2月16日に90.96ドルの最高値を付けていたが、7月26日には4.03ドルにまで価格が低落した。95%ほど株価が吹っ飛んだ計算になる。

これまで中国に「甘すぎた」米国

 そもそも本来中国企業はアメリカ市場に上場できる資格がない。株式市場に上場するには投資家保護の見地から正確な会計監査が行われる必要がある。ところが中国企業の会計情報は「国家機密」にあたるとして中国政府は公開を拒否してきた。高い成長を見せる中国市場に色気を見せたアメリカの金融業界は、中国国内の会計監査の資料提出だけで中国企業の上場を認めるというとんでもないことを認めてきた。そしてこれを利用して様々な詐欺的な行為を働く中国企業も多数出現して問題となっていた。不正会計が発覚して上場廃止になった中国企業は100社以上にもなる。

 そこに来て、さらに中国政府による露骨な中国企業への干渉が相次ぎ、SECとしても中国企業にだけ認めてきた特例を見直さざるをえなくなったというわけである。中国政府が今後突然どのような産業規制を打ち出すかについては全く予測がつかない中では、新規上場など認められるものではない。
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朝香豊:中国企業の米上場厳格化は「中国経済崩壊」の引き金となるか

もはや「怖すぎて」中国企業の上場を認めることは困難?
 中国証券監督管理委員会は、教育業界などへの締め付けは「的を絞ったもので、他業界の企業に打撃を与える意図はない」と説明して火消しに必死だ。だが、「問題がある」と見れば市場にどんどん介入していけばいいとする習近平のあり方が、今後に変化があるとは期待できない。彼はマーケットメカニズムを「正す」必要を感じているからだ。

 習近平がこうした露骨な動きに出ている背景には、習近平が「正しい」と考える社会のあり方から大きくずれた中国社会の実情が関係している。

習近平の狙いと経済の論理が矛盾

 現在中国では出生率の低下が大きな問題となっている。このためすでに年金財政は一部の地域では破綻が始まっており、2028年には上海のような恵まれた大都市にも及ぶと見られている。このため少子化対策は待ったなしの状況だが、年々増大する教育費の大きさに圧迫されて、子供を作らない傾向があると習近平は考えている。この状態を抜本的に転換するためには、民間の塾ビジネスを抑え込まなければならないというのが、習近平の発想である。

 習近平は不動産バブルを潰す動きもどんどん強めている。これも住宅費の高騰が庶民生活を苦しめ、結婚や子作りを諦める原因になっていると習近平が考えているからである。
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朝香豊:中国企業の米上場厳格化は「中国経済崩壊」の引き金となるか

経済崩壊で「裸の王様」になりかねない?
 だがそのような「正しさ」を一方的に押し付けた反作用を、習近平は全く考えていない。アメリカでの新規上場や新たな有価証券の売出しができなくなれば、中国企業の米ドル調達の道は非常に限られることになる。これは中国の外貨調達に不安を感じさせる話だ。

 不動産バブルを崩壊させれば、バブルによって利益を得てきた層を直撃するだけでなく、こうした層の消費能力が減退することなどを通じて、中国経済全体に圧倒的なマイナス作用を及ぼすことになる。

 さて、2015年に起きた中国株式の暴落を「チャイナ・ショック」と呼んでいるが、習近平はこの「チャイナ・ショック」に対して、空売り禁止といった強権を発動した。全上場会社の半分以上の株式の取引を全面停止する処置も行った。こうして強権的にこの危機を乗り切ることができたことから、経済をコントロールできる力を過信しているのではないかと思われる。そこに習近平の最大の弱点がある。やはり習近平が中国経済を崩壊させるのは避けられないようだ。
朝香 豊(あさか ゆたか)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。新著『それでも習近平が中国経済を崩壊させる』(ワック)が好評発売中。

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